朝霞/武蔵浦和/戸田/赤羽で空手道場を運営している道場長 岩田です。
道場長月記をご覧下さり、ありがとうございます。
―結論
―非認知能力とは何か?
-学習指導要領の改訂にみる社会背景
-【未来に活きる力とは】
-【非認知能力と道場指導方針の親和性】
-まとめ
月記の結論は
岩田道場では子供クラス育成方針を定めている。ふとした事から「非認知能力」という言葉を知り、その観点から子供達との正しい関わり方を改めて勉強する事が出来た1~2月でした。
子供一人一人としっかり向き合い、論拠・根拠に基づいて携わる事を旨とし、
「岩田道場が子供達に身につけて欲しいのは空手技術、心身の強さだけではなく非認知能力を含む総合的な人間力である」
という事を改めて提起、少年少女クラス指導方針で定めている自主自立の精神を最重要視し、子供クラスを運営しています。
今回の月記は各項目の概略を示し、次回の月記以降でさらに深くお話をして行きます、お楽しみに!
非認知能力とは何か?
岩田道場での子供クラス育成方針は「社会で活躍できる人間の育成」と明文化しております。
---以下、少年少女クラス指導方針より抜粋
次代を担う子供達を取り巻く環境は少子化、グローバル化、IT化など急速に変化しています。それをうけて現代の子供達の問題として自制心や耐性、規範意識が十分育っていない、運動能力の低下、他者とのかかわり「基本的生活習慣や態度が身についていない」という点がよく挙げられます。グローバル化により社会は徹底した競争社会に、さらにAI時代に突入し2025年には50%以上の仕事を機械が行うと言われる中、今の子供達は我々には想像のつかない世界で人生100年といわれる長い人生を自分の力で生きていく事になります。
その中で必要になってくるのが人間力。
一人の人間として力強く生きていけるための総合的な力「人間力」です。
その基本として、どのような時代であろうとも自分の可能性を信じ、自分で考え、自分で判断し、自分で行動するという「自主自立」の精神こそが子供の豊かな人生の土台となります。自主自立の精神は4項目からなると考え、下図のように定めています。
最近、「非認知能力」という言葉を目にする機会が増えてきました。
数値で計れる知能指数などを認知能力、数値では計れないが大切な能力を非認知能力といいます。
数値で計れない大切なものとは、
・やり抜く力
・自制心
・協調性
・コミュニケーション能力 etc
認知能力―理性―学力などの指数化が容易なもの
非認知能力―情動―情緒などの指数化が難しいもの
学校教育の基準が変わります
ここでは非認知能力が注目されるようになってきた背景について考えます。
2020年度から小学校では新しい学習指導要領が始まりました。
①知能及び技能
➁思考力、判断力、表現力等
③学びに向かう力、人間性等
<この3つの力をバランスよく育む>と謳っており、認知能力×非認知能力を掛け合わせて教育していく方針を明確に打ち出しています。 *文部科学省-学習指導要領
この背景にあるのは間違いなくAI(人工知能・ロボット)時代の到来です。
人口知能という革新は必ず起こり、今すでに始動しており、その革新には衰退が伴います。産業構造が変わるという事です。2015年、野村総合研究所の試算によると、~20年ほどの間で日本の労働人口49%程度が仕事をAIに変わられる可能性が高いとされています。演算処理はAIに敵うすべはないのですから、ロボを作るか、ロボに方向を示すか、現場に出るかという選択問題にもなります。管理職という職位は無用となる時代へ入ります。怖ろしい事です。
AIには出来ない事、ここに焦点を当てて行動していかなければAI>人間という現実が非常に高い確率で実現するのです。
今まで人間が頑張ってきた認知能力分野はAIに任せていく時代。上手に共存して人間だからこそ出来る役割、仕事を見つけることが大事になるのではないでしょうか。
変化に対応できる心の柔軟性を併せ持つ必要があります。
未来に活きる力とは
●やり抜く力
「やり抜く力」については、アメリカのペンシルベニア大学のアンジェラ―・リー・ダックワーズ教授が提唱した「Grit」という言葉が知られるようになってきました。
①Guts(度胸)
②Resilience(復元力)
③lnitiative(自発性)
④Tenacity(執念)
の頭文字をとったものがGrit。
この「Grit」、日本語で言えば「やり抜く力」です。
「Grit」を育てるには、子供が主体的に考え動くこと、長期的・継続的な粘り強い努力が大切とされています。しかし幼い頃から常に自分で自発的に目標を持ちコツコツ努力を続けていける子供は少ないのではないでしょうか。
そうなるためにはどのような土壌で育つのかが非常に大切になってくると思います。
ただ何かをだらだらと続けても「Grit」は育ちません。主体的に動くこと、少し難しいことに挑戦する事、継続的に努力を続ける事が必要になります。
道場の稽古の中では、上から「あれをしなさい」と言うだけでなく、子供達には自分で目標を設定し、クリア出来るようにどうしたら良いか考えて動くよう促していくようにしています。また挑戦する事の楽しさを知ってもらうために、地道ではありますが、少し難しい事にチャレンジするようにしています。最初は上手くいかなくても、コツをつかむと子供達の上達は早いものです。できるようになったら出来るまで頑張ったこと、目標をクリアしたことを誉めて、さらにもう少しハードルをあげていきます。こうして少しずつ成功体験を積み重ねると、「頑張れば出来るんだ!」ということをわかってくれます。自分に自信が持てるようになってくるのです。そうなると不思議なことに少し難しいかなという課題も「どうせやってもダメだ」と思わなくなります。「自分はやれば出来るんだ」という明るい未来を描けるようになっていきます。
上手くいかないときは、どうして上手くいかなかったのか、何が足りないのかを、問いかけながら一緒に考えた上で指導するようにしています。時には動画で動きを確認したり、先輩達の動きを見たりすることで、小学校低学年くらいでも、自分なりに考えて分析して、足りない部分を話せるようになります。ビシッと的を得た答えが帰って来て驚かされることもあります。
日々普通に繰り返されるこういったやり取りが、一年、二年と続くうちに、受け身だった子供も、自ら「ここがダメだったな..もう一回やってみよう!」などと独り言を言いながら蹴りの練習をしていたり、稽古の後に出来なかった型を出来る子に聞いてやってみたりと自発的に努力するようになってきます。そんな姿を目にすることは本当に嬉しいものです。
「やり抜く力」は絶対に身につけて欲しいものの一つです。これがないと、どんなに才能に恵まれていても、それを無駄にしてしまいます。「やり抜く力」がないと結局成功まで至りません。
●自制心(実行機能と言い換えても良い)
自制心については、「マシュマロ実験」という実験により、自制心のある子は学業成績も高いというデータが出ています。
確かに、宿題をしないとならないがゲームをしたいという時に、自制心を持って先にきちんとやるべき宿題ができる子と、ゲームをしてしまう子では、その行動が365日×6年、さらに3年、3年と積み重なったときには大きな差になることは明らかです。マシュマロ実験の論文は1988年、1990年に発表されたもの。このマシュマロ実験は本当に正しいのかを検証したのがNY大学のワット博士率いるチーム、2018年に発表された論文です。これによると幼児期のマシュマロテストが青年期に与える影響は極めて小さい事が示されています。お子さんにマシュマロ実験をしようと思われた方は踏みとどまって下さいね。
自制心がなぜ実行機能と言い換え事が出来るのか?
マシュマロ実験でも明らかなように目の前にある誘惑、要求に抵抗し、将来の利益を方法を選択する力が実行機能と言われているからです。
デューク大学、カスピ博士らのグループによる2011年の報告では子供期において実行機能が低い(自制心が低い、我慢が出来ない)子供は、大人になった時に以下のような点で問題を抱えやすいことが示されています。
・循環器系疾患のリスクが高い
・肥満になりやすい
・歯周病になりやすい
・ニコチン依存症になりやすい
・薬物依存症になりやすい
・年収が低い
・将来への資産運用が出来ない(貯金が少ない) etc
どれをとっても納得の結果。食べたい衝動を我慢が出来ない事から肥満化するし、身体に害をなすと理解していてもタバコ・薬物依存症にもなろう。仮にIQ抜群であったとしても、自制心が低いと周囲とぶつかる事も多くなり結果として収入が低くなってしまったり、お金があっても直ぐにパーっと使ってしまい貯金や運用も少なくなる。あくまでも全体的な傾向なので絶対ではありませんが、まあまあ納得の結果です。
パーっとお金を使ってしまう、いわゆる衝動買いの経験が僕にもあります。大人だけに金額も大きく、
●協調性、コミュニケーション能力 etc
協調性・コミュニケーション能力など周りの気持ちを汲み取ったり、思いやりを持った言動は、社会に出たときに非常に重要です。もしもずば抜けた才能があっても誰からの協力も得られなければ物事は上手くいかないでしょう。
道場では違う学年の子供達が一緒に稽古する事で、年下は年上を見習い、年上は年下の面倒をみたりしながら毎週一緒に稽古をするなかで、こういった能力が自然に身についていくようです。道場に限らず他の習い事でも、家とも学校ともまた違うコミュニティを経験する事は大切なことだと思います。
岩田道場では
・同学年を横軸=競争相手
・異学年は縦軸=先輩後輩、手本であったり憧れの存在であったり。教えたり教わったり。
さらに縦横の交流を常にもたせ、ともに成長しあう関係性を構築する事で人間性の深さ(奥行)を構築するようクラス運営を行っています。細分化したグループ稽古が主にそれにあたります。
非認知能力と道場指導方針の親和性
子供クラス育成方針の明文化に取り組んでいる最中では知る事がなかった非認知能力ですが、僕の思考が重なる面も多く不思議な縁を感じます。
2000年にジェームズ・J・ヘックマンより提唱された非認知能力がAI時代を迎えた現代に繋がり、それらの知らなかった僕が策定した指導方針がそれらと繋がるという不思議な巡り合わせ。人生とは往々にしてこのような縁に恵まれるものです。
僕は空手が大好きです。子供の頃は負けるのが嫌で、強くなるために必死にトレーニングをしました。時代は昭和、「極道の妻たち」が上映され、スクールウォーズが感動を呼び、まいっちんぐマチコ先生に恋い焦がれる時代ですから、現在の年号、令和ではアウトな理不尽なこともたくさん経験しました。しかしそんな時代を乗り越えた結束は強く、多くの仲間ができましたし、自分自身非常に成長させてもらった事も事実です。強い体と折れない心、やりたいことは失敗してもしつこいくらい粘る精神は空手のおかげです。僕にも泣きたい時はある、そんな時は寝る!爆睡します(*^。^*)そしてまた頑張る。ティモンディー(お笑い芸人)の「やれば出来るっ!」を信じてます。
「努力すれば全てが叶うわけではないけど、成功している人はずっと努力してるんだって。」
これは今は20歳の道場生が小学6年の時に、試合で負けて凹んでいる仲間に向けて言った言葉です。ハッっとさせられました。僕の大好きな空手を、同じく楽しいと感じてもらえたら、単純にとても嬉しい.
そしてその空手を通じて、この先に充実した明るい人生の基本となる強い心が身についてくれたら、こんなに嬉しいことはありません。毎日子供達の成長から非常にエネルギーをもらっています。泣いて悔しがったり、必死に体得したい技を練習する姿を見ると、その熱さが羨ましくおじさんも負けてられない。
それこそプラスのスパイラルです。
さんざん非認知能力を伸ばす事を書き連ねてきましたが、学力(認知能力)は当然大切です。そこに非認知能力を加えて両輪となす。そのようにご理解頂きたい。ここ重要!
情けは人の為ならず
3月月記の最後に大好きな歴史を絡めて、本号をまとめます。
これは新渡戸稲造翁が大正4年に著した「一日一言」4月23日に書かれている言葉です。
そうです、五千円札の新渡戸稲造翁です。全文を知っている人は少ないのかもしれませんので紹介します。
施せし情は人の為ならず おのがこゝろの慰めと知れ 我れ人にかけし恵は忘れても ひとの恩をば長く忘るな
~情けをかけるのは自分の芯根に対してのもの。他人にした事は忘れてしまえ、しかし人から受けた恩は絶対に忘れるな~
という意味です。
これを指導者向けに改編すると
指導は人の為ならず 己が心のためと知れ となります。
教えることは学ぶこと 誰もが聞いた事がある言葉だと思います。
古今東西、同様の言葉が残っており
・教えることは学ぶこと-日本のことわざ(由来は書経か)
・Dum docent discunt.(人は教える間、学んでいる)-ラテン語
・教うるは学ぶの半ば-書経(しょきょう)紀元前600年ごろに書かれたと考えられている中国の書物
少年少女クラス指導方針で定めている自主自立の精神を最重要視し、子供クラスを運営していく道場に通ってくれている子供たち一人一人と真剣に向き合い、これからも子供達と共に一緒に学び、共に走りつづけようと思います!
この月記で以下に触れてきました。
―非認知能力とは何か?
-学習指導要領の改訂にみる社会背景
-【未来に活きる力とは】
-【非認知能力と道場指導方針の親和性】
上記については次号から、さらに深くお話をしていきたいと思います。道場長月記初の連載シリーズになります(^_-)-☆
この記事をお読みになり、岩田道場に興味をお持ちになられる方がいらっしゃいましたら是非とも我が道場へ見学・体験にお越しください。
メリハリあるクラス運営、横軸(同学年)と縦軸(異学年)が不思議と交錯する雰囲気に驚かれるかもしれません。
岩田道場が皆さまの人生に取り、少しでもプラススパイラルをもたらす事が出来れば、この上ない喜びです。
長文お読みいただきありがとうございました、押忍
●朝霞道場 https://iwatadojo.jp/asaka4.html
●武蔵浦和道場 https://iwatadojo.jp/musashiurawa.html
●戸田道場 https://iwatadojo.jp/toda.html
●赤羽道場 https://iwatadojo.jp/akabane.html
参考文献
・文部科学省-学習指導要領
・「きっと芽が出る人」の法則 江口克彦 著(PHP)
・非認知能力が子どもを伸ばす 中山芳一 著(東京書籍)
・非認知能力を伸ばす おうちモンテッソーリ77のメニュー 監修 中山芳一(東京書籍)
・じょうぶな頭とかしこい体になるために 五味太郎 著(ブロンズ新書)
・武士道的一日一言 新渡戸稲造 著(朝日新書)
・自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学 森口佑介 著(講談社現代新書)