朝霞/武蔵浦和/戸田/赤羽で空手道場を運営している道場長 岩田です。
道場長月記をご覧下さり、ありがとうございます。
先月の月記において「非認知能力」という言葉を紹介させて頂きました。3月号はコチラを→
道場長月記4月号では、非認知能力について深堀し、紹介して行きたいと思います。
非認知能力とは?
数値で計れる知能指数などを認知能力、数値では計れないが大切な能力を非認知能力といいます。
認知能力―学力、偏差値等の点数、指数化が容易なもの
非認知能力―自己認識、対応力等の指数化が難しいもの
・やり抜く力
・自制心
・協調性
・コミュニケーション能力 etc
非認知能力は「人生における成功を支える力」とも言われている重要な能力です。
幼児教育で著名な東京大学名誉教授の汐見稔幸氏は、非認知能力を魚捕りで例えて解説しています。
・罠をひたすら作り続ける集中力
・罠を改善したり罠を仕掛けるポイントを考える直感力
・魚が取れなくてもあきらめない忍耐力
・失敗しても「まあいいか」と思える楽天性
・友達と協力する力
・間違ったことをしたら素直に謝ることができる正直さ
これらが非認知能力であると述べています。*出典:汐見稔幸. こども・保育・人間 (Gakken保育Books) (2018)
3つの枠組みで非認知能力を捉えてみて下さい。
①自分と向き合う力
・自制心
・忍耐力
・復元力(レジリエンス) など
②自分を高める力
・意欲
・向上心
・楽観性 など
③他者とつながる力
・コミュニケーション力
・共感力
・社交性・協調性 など
リスト化すると、
以下の論文に基づいて、表作成。
Gutman, L. M., & Schoon, I. (2013). The impact of non-cognitive skills on outcomes for young people. Education Endowment Foundation, 59(22.2), 2019.Motivation
西田ら「非認知能力に関する研究の動向と課題」東京大学大学院教育研究科紀要 vol58 2018 p33
非認知能力を世界で最初に提唱したのは2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン(シカゴ大学・経済学者)です。
彼はミシガン州にあるペリー幼稚園で実施されていた就学前プログラムの研究を行っており、このプログラムを提供された子供、そうでない子供を40歳まで追いかけて、学歴や収入、さらに犯罪率まで調査。両者を比較した結果、プログラムを受けた子供の方が学歴、年収は高く、犯罪率は低くなる事が分かったそうです。
ヘックマンは、この要因としてIQの高さではなくプログラムの中で得られる数値化が困難な力、非認知能力の獲得・向上もあると気付いたそうです。
注1:プログラム提供対象は経済的な貧困層に該当する幼児を対象に実施されていたもの。いわゆる普通の家庭環境ではないという点を含めて、研究結果を理解する必要があります。
注2:【貧困層】の定義は生活必需品を購入できるかどうかにより定められ、その基準は世帯人数、世帯構成員の年齢などにより変化するので金額での基準明示は出来ない。一例として5人家族の収入が23,108ドル未満の場合を貧困層とみなすとしている。 出典 日本貿易振興機構アジア経済研究所-海外研究員レポート「アメリカにおける貧困と所得不平等について」
認知能力に加えて、非認知能力の獲得・向上が人生において非常に重要であることが研究結果からも明らかになったと理解して良いでしょう。
ここまで非認知能力の構成因子や研究について記述してきましたが、「非認知能力」という新しい語感に際し、むしろ親しみや、懐かしい印象を受ける方も多いのではないでしょうか。
それもそのはず、構成要素はどれも以前から提唱されている事柄ばかり。日本国の教育で言いますと【道徳】がそれに該当するのではないかと思います。道徳観の重要性が、現代の研究により明らかになった。僕はそのように理解しています。
注目されるようになった背景
Society5.0 超スマート社会 という定義があります。
日本が提唱する未来社会のコンセプト。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会。 出典 内閣府科学技術政策より
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
Society4.0 情報社会→Society5.0 超スマート社会の変革イメージ
情報社会、超スマート社会という変化の激しい社会では、明確な正解のない問題に対応したり、異質な他者と協働したりできること、新しい価値を創造することなど、人間にしかできないことが大切になってきます。特に、AIの進歩などにより、2015年に発表された野村総合研究所の試算によると、2015年から20年ほどの間で日本の労働人口49%程度が仕事をAIに変わられる可能性が高いとされています。試算が実現したとの仮定で考えると、残る職業の特徴から対人能力、変化に対して柔軟に対応できる能力への需要が高まっていることが指摘されるようになりました。
OECDが現代社会で求められる能力を明確化したキー・コンピテンシ(key competency)という概念があります。OECDが1999年~2002にかけて行った「能力の定義と選択」プロジェクトの成果で、多数の加盟国が参加して国際的合意を得た新たな能力概念です。
①相互作用的に道具を用いる力
②社会的に異質な集団で交流する力
③自律的に活動する力
2000年代半ばあたりから、いわゆる「学力」だけでは十分でなく「コミュニケーション能力」も必要だという研究が発出し、そうした時代背景を基に2007年、2018年と、二度の学習指導要領の改訂が行われました。
ジェームズ・ヘックマンの研究(就学前教育による 非認知的能力の向上がもたらす教育投資効果を示した)などが、教育制度レベルのみならず、子育てノウハウのレベルで注目されるようになると、「非認知的能力」の捉え方に変化が起こり始め、「コミュニケーション能力」という言葉で象徴的に表現され、早期教育や教育 投資の対象として伸長可能な資質・能力、さらには訓練可能なスキルを意味するようになり、その結果、対人能力よりも「実行機能」「メタ認知」といった「自分をコントロールする力」への注目が高まっています。
・非認知的能力はIQよりも大事で、自制心がありがまんができる子どもが将来成功しやすい!
・しかも、そうした能力は可塑性があり、教育によって伸ばせるし、早期に取り組んだ方 が効率がよい!
そのようなうたい文句で、子育てのノウハウ本やスキルトレーニング的なプログラムを目にする機会が増えました。子育てに有用!と言われたら親世代は気になってしまいますよね。
学術的領域から各家庭まで非認知能力が広く認知されるようになった背景には、1990年代からの研究に端を発した学習指導要領改訂、インターネットによる情報社会(Society4.0)が挙げられます。変革速度はますます速くなる事は想像に難しくありません。変化に対応できる柔軟性が強く求められます。
その柔軟性を大人達は今、強く求められています。コロナ禍により、社会観念が大きく変化しました。
リモートワーク、印鑑不要、ソーシャルディスタンス、時短、マスク、検温、消毒、終電繰り上げ、気合なし、換気、エア握手、肘タッチ、転売、緊急事態宣言、ロックダウン、医療崩壊、PCR検査、黙食etc
キーワードを挙げたらざっと20以上は出てくるほど、コロナ禍は社会を、世界を変えました。変化はまさに今、起きています。その速度は驚くべき速さで社会を、今も変革し続けています。もうコロナ前に完全に戻る事はないでしょう。我々は振り返る事なく、前を向かなければなりません。マスク着用ですら柔軟に対応できない人がニュース等で散見されます。思考の柔軟性、やはり大切です。
どうやって非認知能力を伸ばしていけば良いの?
- 子供の発想を伸ばす大人の声掛け
- 異年齢での行動、活動
- 結果より過程をほめる
- みんなの前で、何かが出来る
- やれば出来る自信を持つ
- 自分を振り返り、考える時間を持つ
- 自分の課題をどう解決するか考えてみる
- 成功体験を積み重ねる
環境を整え、活動のしかたを伝える。
それが大人の役割です。
大人は手遅れ?
子供に対しての非認知能力をこれまで考えてきました。
では大人は手遅れなのかといえば、そうではないそうです。子供期と比較すると緩やかな成長ではありますが可能であるとされています。
しかしながら、大人の方には非認知能力という括りではなく、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提案したキャリア論に関する考え方として発表された<計画された偶発性理論>をお勧めしたいと思います。
<計画された偶発性理論>とは
個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこうという考え方。
計画された偶然性は以下の行動特性を持っている人に起こりやすいと考えられています。
1.好奇心(新しいことを知り、学ぼうと出来ること)
2.持続性(失敗しても諦めずに努力出来ること)
3.柔軟性(状況に応じて、姿勢や物事の考え方を変えられること)
4.楽観性(チャンスはやってきて、つかめると考えられること)
5.冒険心(結果のことは考えずに、まずは行動できること) Wikipediaより
大人になり、社会にも慣れ、自分のペースが出来上がってくると上記5項目が薄れてくる事を感じる方は決して少なくないと思われます。皆さんはいかがでしょうか?
岩田道場では親子で一緒に稽古に励む方も多く在籍しています。皆さん一様におっしゃっているのが「子供のために強くありたい」との言葉。含蓄に富む、平坦ながらも響きのある素晴らしい言葉だと常々思います。
実るほど頭が下がる稲穂かな
ことわざを逆説的に考えれば、「実るためには(謙虚に)頭を下げなきゃね!」と読むことも出来ます。
大人になると理解できることも多いですね。
僕は今から10年ほど前でしょうか、前所属団体の館長より突然「もっと謙虚に」とアドバイスを受けた事があります。
その当時は「(;’∀’)??????、、、今、俺は何かした????(;’∀’)」と全く理解できなかったのですが、僕の立ち居振舞いから「学ぶことへの謙虚さが薄れている」との事を察し、訓示頂いたのかもしれません。
年長者に学ぶこともあれば、年少者に学ぶこともあります。子供たちの振舞い、言葉からも学ぶことは多くあります。独尊であるかのような心持ちではなく、それこそ【我以外皆我師】という心持ちが、大人であればこそ大切なのではないか。僕はそのように理解しています。
我以外皆我師とは小説【宮本武蔵】を著作された吉川英治翁の言葉で、【新書太閤記】に登場する一節です。
【実在した宮本武蔵】が著作した【五輪書】には「我に師匠なし」とありますから、さすが生涯無敗の漢。プライドの高い嫌な奴だったのかもしれませんね(笑)
これからは人生100年時代。子供たちだけでなく、我々大人も同時に学び続けていく必要があります。
4月5日付の日経新聞でも名スナイパー・デューク東郷氏が、このようにおっしゃっております。
僕自身、これからも子供たちとの関わりの中で多くの事を学び、また気付きを与えられ成長し、その成果を子供たちへフィードバックしていきたい。同時に新たな事柄も学び続けていきたいと思います。
3月から初の試みとなる月記連載シリーズ。4月号月記では非認知能力とは何か?に触れてきました。
4月―【非認知能力とは何か?】 ←今月はココ!
5月-【学習指導要領の改訂にみる教育課程の再編意図】、【未来に活きる力とは】
6月-【非認知能力と道場指導方針の親和性】
次回、【学習指導要領の改訂にみる教育課程の再編意図】【未来に活きる力とは】を考察していきます。
この記事をお読みになり、岩田道場に興味をお持ちになられる方がいらっしゃいましたら是非とも我が道場へ見学・体験にお越しください。
メリハリあるクラス運営、横軸(同学年)と縦軸(異学年)が不思議と交錯する雰囲気に驚かれるかもしれません。
岩田道場が皆さまの人生に取り、少しでもプラススパイラルをもたらす事が出来れば、この上ない喜びです。
長文お読みいただきありがとうございました、押忍
新規入会者の増加に伴い4月3日現在、朝霞道場の子供クラスは新規入会手続きを制限させて頂いております。
道場内での見学・体験についても、今の子供メンバー達の稽古指導に専念するため受付を中止しております。
今のメンバー達をしっかりと育成し、稽古の質を担保出来るレベルに達しましたら、新規メンバーをお迎えしたいと考えております。なお、新規入会受付はお待ち頂いております予約番号順にご案内させて頂きます。
体験・見学について再開目途は2021年10月頃と想定しております。道場外での見学については別段の規定はございませんので見学頂ければ幸甚です。
参考文献
・これから求める非認知能力とは? ―日本教材文化研究財団
・汐見稔幸 こども・保育・人間 ―Gakken保育Books(2018)
・内閣府科学技術政策よりsociety5.0を抜粋、引用
・日本貿易振興機構アジア経済研究所-海外研究員レポート「アメリカにおける貧困と所得不平等について」
・学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす ―中山芳一(東京書籍)
・自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学 ―森口佑介(講談社現代新書)
・非認知能力をおうちでのばす77のメニュー ―中山芳一(東京書籍)